本報告書は、未来工学研究所が実施する 3 年間の外交・安全保障研究事業費補助金(調査研究 事業)「技術革新がもたらす安全保障環境の変容と我が国の対応」の最終年度の成果である。
技術革新の進展は、安全保障の空間的変容をもたらしつつある。伝統的な安全保障戦略の中心 であった陸、海、空という 3 つの領域(ドメイン)に加え、新たな領域として、宇宙及びサイバ ー空間の利用がこれまでにない規模及び範囲で進むようになった。さらに 2018 年の防衛大綱で は電磁スペクトラムが取り上げられた。これらの領域は個別に独立している訳ではなく、大気圏 内と宇宙空間、サイバー空間と電磁スペクトラム領域を横断する(クロス・ドメイン)形で相互 作用するようになりつつある。 こうした動きを受けて、米国、中国、ロシア等の各国はそれぞれの経済力、技術力、安全保障 環境等に応じた戦略を展開している。 我が国としては、一方では日米同盟を有効に機能させるべく、同盟国である米国の国防イノベ ーションにどのように向き合い、必要な措置を講じていくのか、という課題を抱えている。他方 で尖閣諸島周辺での公船による領海侵入を繰り返し、防空識別圏を一方的に設定し、日本側のス クランブル発進の回数を激増させている中国が無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle: UAV)で日 本の領空を侵犯してきた場合、従来のような対領空侵犯措置が行えなくなる恐れがある。海上自 衛隊と異なり直ちに航空自衛隊が対応することになるためエスカレーションの危険を孕んでお り、こうしたリスクに備えるための法制度整備が急がれる。 また、無人化システム・ロボット技術の兵器利用が進む中で、テロ組織などによるこのような 技術を用いた兵器の拡散防止は喫緊かつ必須の課題であり、現在進められている同分野での国際 規範作りにおいて積極的にかかわることは、外交政策における軍備管理・軍縮と不拡散、科学技 術への比重を強め、同時に高度な AI・ロボット技術を強みとする我が国にとって、国際社会での プレゼンスを高める上でも肝要である。
以上の問題意識を踏まえ、当研究所では「技術革新がもたらす安全保障環境の変容と我が国の 対応」をテーマに、技術革新がグローバルな安全保障環境、及び我が国の安全保障に対してどの ような変化をもたらしているのかを検証し、日米同盟のあり方を含めた我が国のとるべき外交政 策及び安全保障戦略形成に貢献することを目的とする。
調査研究事業のプロジェクトチームは以下の構成となっている。
【主 査】 西山 淳一 未来工学研究所政策調査分析センター研究参与
【メンバー】 多田 浩之 未来工学研究所政策調査分析センター主席研究員
伊藤和歌子 未来工学研究所政策調査分析センター主任研究員
山本 智史 未来工学研究所政策調査分析センター研究員
小泉 悠 東京大学先端科学技術研究センター特任助教
長尾 賢 ハドソン研究所研究員
なお、この報告書に記載されている見解は、すべて上記プロジェクトチームのものであり、 当研究所の見解を代表するものではない。 最後に、本事業は、外務省より補助金を得て実施することができた。記して深甚なる謝意を 表したい。
令和 2 年 3 月 31 日 公益財団法人
未来工学研究所政策調査分析センター研究参与 西山 淳一
令和元年度外交・安全保障調査研究事業費補助金(調査研究事業)
「技術革新がもたらす安全保障環境の変容と我が国の対応」 報告書