最近、我が国の政策問題として注目を集めている経済安全保障や研究安全保障の問題を踏まえて、今回、外務省の令和2年度外交・安全保障調査研究事業費補助金調査研究事業(令和2~4年度の3年間の事業)で実施した「我が国の経済安全保障・国家安全保障の未来を左右する新興技術」の成果報告書「日本として考えるべき外交政策:米中2強の時代に求められる新興技術戦略」の一部を公開することに致しました。
本研究は、人類の将来に大きなメリットとともにリスクをもたらすと考えられている、新興技術である合成生物学とニューロテクノロジーを対象として、それらが日本の経済安全保障と国家安全保障に及ぼす影響を分析し、今後日本がとるべき外交政策に資することを目的として、令和2年度からスタートした。
令和2年度は、初年度の作業として、経済安全保障の観点から、国内外の合成生物学研究者・有識者およびニューロテクノロジー研究者・有識者を当所主催の研究会にお招きし、講演頂いたうえで、民利用を中心とした合成生物学研究とニューロテクノロジー研究の特徴を俯瞰的に理解し、整理することを目的として調査を実施した。
令和3年度は、国内外の合成生物学研究者や有識者、ニューロテクノロジー研究者や有識者に加え、ELSI(倫理的・法的・社会的問題)の専門家を当所主催の研究会にお招きし、講演頂いたうえで、軍事分野における合成生物学およびニューロテクノロジー研究を取り巻く背景を踏まえて、国家安全保障の観点から、軍事利用を中心とした両技術に関する研究の特徴を俯瞰的に理解し、整理することを目的として調査を実施した。
令和4年度(最終年度)は、プロジェクトの最終年度を迎え、令和2年度および3年度に実施した研究を踏まえて、市場・産業化、政府R&Dプログラム、規制/ガバナンス(ELSI/RRI(責任ある研究・イノベーション)を含む)の観点から、合成生物学とニューロテクノロジーに関する米欧中日の最近の取組について幅広く補完調査を行い、経済安全保障および国家安全保障の観点から大きな問題になっている合成生物学およびニューロテクノロジーにおける米中の競合関係に関する議論を幅広く調査・分析したうえで、合成生物学とニューロテクノロジーを中心とした新興技術に関して、日本として考えるべき政策について提言を行った。
令和4年度は、この調査活動の一環として、①米国の合成生物学研究者や中国の安全保障問題に関する米国の研究者を当所主催の研究会にお招きし、講演頂くとともに、②米国から、最先端のニューロテクノロジー研究を実施している科学者、中国の新興技術や技術移転に詳しい安全保障を専門とする研究者、合成生物学ユニコーン企業の創立者および破壊的技術のELSIの側面にフォーカスした国際的な研究を行っている研究者をお招きして、「新興技術が日本の経済・国家安全保障に及ぼす影響について考える」Webinarを2回実施し、多様なテーマで講演頂き、幅広く議論頂いた。
なお、令和4年度においては、政策提言を行う一環として、合成生物学とニューロテクノロジーに関する最近の米欧中日の取組を踏まえて、合成生物学とニューロテクノロジーの取組のレベル感について各国間の比較評価を行った。
本報告書は、以上を踏まえ、公益財団法人未来工学研究所が実施する調査研究事業「我が国の経済安全保障・国家安全保障の未来を左右する新興技術」の3年間にわたる調査研究で得られた成果を最終報告書として纏めたものである。
公開した部分は、報告書の冒頭の部分と提言の部分のみでございますが、今後、我が国で、経済安全保障、国家安全保障、研究安全保障等の安全保障問題に関する意識の向上、安全保障問題に関する戦略的研究、並びに責任ある研究・イノベーション(RRI)を踏まえた経済・国家安全保障に資する研究開発を推進していくための起爆剤になれば良いと考えております。
この分野にご興味のある方がおられましたたら、ご一報頂ければ幸いです。
公益財団法人 未来工学研究所政策調査分析センター 主席研究員
多田 浩之