※この提案は、担当者がコロンビア大学国際公共政策大学院在学中から抱いてきた内容ですが、今回の調査は公益財団法人倶進会からの助成によっています。
[ 問題提起01] 実践的な市民教育の充実を前提とした、政策形成過程への市民参加の推進
問題提起1.1 政策形成過程への市民参加の推進
市民が政策形成過程に直接関与する試みは、担当者の米国調査によれば、以下の多様な事例が見られた。 (以下、無断引用禁止)
(1)南カリフォルニア大学住民投票研究機関エグゼクティブ・ディレクター ジョン・マツサカ教授
「直接民主制の手法をもっと利用するべき」
マツサカ教授は「デモクラシーは完璧ではなく、独裁政治の方が時には人々にとって良いことをすることもある。それでも私は、独裁政治よりデモクラシーを選ぶ」と主張する。「デモクラシーは『人々を信じる』ことであり、『大衆が統治する(People will rule)』が原則である。しかし、その大衆はきちんと教育され、情報を十分に与えられた大衆でなければならない。私は直接民主制にはさまざまな問題点があるが、間接民主制より良いものだと思う。10人のエリートの決定より、100万人の有権者の決定を自分は支持する。なぜなら、『大数の法則』によると、たとえ一人ひとりの知識が少なく偏っていても、多くの人々の知識を集めれば、物事の全体を把握できるからだ」と説明する。
直接民主制の手法を利用することで、現在の政治構造よりも、人々の意見を反映した政策を作ったり、社会が直面する問題に、より効果的に取り組んだりすることができる、とみている。しかし何でも直接民主制で決めるのではなく、UKのEU離脱問題や死刑制度などの大きな問題や、同姓婚のような価値観がかかわる問題を、一握りの専門家に決めさせるのではなく、国民に判断を委ねるべきだ、と考えている。
(2)モーリー・ウィノグラッド氏
「仮想空間で政策シミュレーション」
米国の10代、20代の若者たちがインターネットを駆使して政治に積極的に関与し、オバマ氏の大統領当選のきっかけを作った社会的背景を描いた「アメリカを変えたM(ミレニアル)世代」の著者の一人である。ウィノグラッド氏は本書の中で仮想世界「アイディアの島」での政策シミュレーションを提案している。「アイディアの島」とは、市民が選択した政策で、どのような生活になるかを仮想現実で体験するゲーム。ゲームが終わると、各参加者は自分の望む結果を導く可能性のある政策に投票する。ウィノグラッド氏は、この「アイディアの島」を国民が政策に直接かかわれる理想的な形だとしながらも、この構想の実現はミレニアル世代が社会の中核になるまでは難しいと見ている。
ウィノグラッド氏は直接民主制自体には慎重である。専門家グループより優れた判断ができるグループには厳しい条件があり、多様性に富むミレニアル世代でさえもこれを満たすのは難しい、とみている。しかし直接投票がディベートを引き起こし、国民が社会のことについて真剣に考えるきっかけになることは良い、と考えている。
(3)メリーランド大学公共政策大学院ディレクターでVoice of the People代表 スティーブン・カル氏
「議員に政策を提案するCitizen Cabinet(市民内閣)設立を」
スティーブン・カル氏は住民投票のような直接民主制自体には懐疑的である。「直接投票は、短期間で重要な問題を決めなければならず、情報が大衆に十分に与えられないことも多く、特定利益団体が介入しやすい」と指摘する。その代わりに提案しているのが、国会議員に市民が政策提案を行うCitizen Cabinet(市民内閣)である。
Citizen Cabinetは現在米国の8州で実施され、のべ7000人が参加している。最終目標は市民10万人の参加を目指している。Citizen Cabinetのメンバーは無作為抽出で選ばれ、名前や住所は非公開である。メンバーはインターネットで防衛政策や社会保障政策などのシミュレーションシステムを操作して、政策オプションを比較したり、政策課題に対する賛成、反対の両方の意見を見比べたりして、議員になったつもりで全体を視野に入れ、政策や予算規模を考え、議員に提案する。シミュレーションは基礎から説明されていてわかりやすく、専門知識がなくても政策を考えられるように工夫されている。例えば防衛政策シミュレーションでは、米国の防衛予算の規模が他の予算と比べてどのくらいか、歴史的にどのように防衛予算は変化しているか、などについて平易な文章とグラフで説明されている。シミュレーションにかかる時間は英語ネイティブであれば30分程度で、それほど負担ではない。シミュレーションのデータや説明は、Citizen Cabinet設立を推進している団体Voice of the Peopleが用意しているが、客観的な数字や、賛成、反対両方の意見が併記されており、中立的であろうと努力しているのが伺える。
Citizen Cabinetの調査の結果、米国人は妥当な情報が与えられれば、現実的で長期的な視野で政策を選べることが判明した。カル氏は「Citizen Cabinetの影響力が増すにつれて、有権者が本当は何を望んでいるかが明らかになり、対立する共和党と民主党が協調路線をとれるようになる。また、特定利益団体の意向で動いている政治家の立場が危ういものになり、その結果、特定利益団体が政治に介入しづらくなる」と説明する。
政策シミュレーションのサイトは
(4)ミリ・ボニラ氏(ニューヨーク市議会のコミュニティー・リエゾン)
「住民に予算の一部を決定させるParticipatory Budgeting(参加型予算編成)」
予算の一部を住民に決定させるParticipatory Budgeting(PB)が現在、世界中の1500以上の都市で実施されている。米国のニューヨーク市では、現在51ある行政区のうち半数以上の28行政区で採用されている。市会議員が予算配分を決めるdiscretionary funds(自由裁量資金 1行政区で500万ドル程度)のうち、インフラ整備に使うcapital funds(投資資金 1行政区で100~200万ドル)をPBで決めている。住民は学校の改善、公園や図書館、道路などの整備、交通機関の改善、公営住宅改修などのプロジェクトを提案できる。PBのプロセスとしては、近隣地区会議を開き、そこで住民から数百のアイディアが提案される。予算代理人(住民のボランティア)が市議会議員スタッフのサポートを受けてアイディアを検証し、市職員と討論して最終草案に仕上げる。住民は最終草案を見て、どのプロジェクトに予算をつけるか投票する。2014年-2015年では、28区で114件のプロジェクトに予算配分を決めた。1件あたりの平均額は28万ドル。ニューヨーク市では14歳以上なら誰でも、不法移民でも投票できる。ボニラ氏は「これまで大統領選にも投票したことがない人もPBに投票している。住民に政治や予算に関心を持ってもらうのが目標だ」と話す。
予算決定したものを見たい方は へ
この調査を踏まえ、問題提起担当者としては、我が国でも市民が政策形成に直接関与する機会を増やすべきだと考えています。いかがでしょうか?
期待される論点
・直接民主制導入の是非、その理由等
・政策形成過程への市民参加の是非、その理由等
・米国の事例に対する意見等
問題提起1.2 実践的な市民教育の充実
担当者は以下の意見を持っています。
直接民主制を実現するには、国民が政治や政策について十分な知識を持たなければならず、実践的な市民教育(公民教育)が必要になってきます。
日本でも投票年齢が18歳に引き下げられ、もっと実践的な主権者教育をしようと、副教材を導入したり、ディベートを授業で取り入れたりするなどの工夫が見られるところです。また、アクティブ・ラーニングを授業に取り入れた学校では、生徒が学習に積極的になるなどの成果が現れています。しかし「政治的中立」を強調するあまり、ディベートのトピックも無難なものが選ばれる傾向にあるといえます。
一方、米国の市民教育は日本の公民教育に比べ、非常に具体的なものです。テロや移民問題、死刑制度など現在論争になっているトピックを主題として、生徒たちにディベートさせているのです。
日本も、本来、安保法制や集団的自衛権、沖縄の基地問題や原発問題など、論議を呼んでいるトピックを授業で扱い、議論させて、生徒たちに政治への当事者意識を持たせ、投票の重要性を教えるべきではないでしょうか。
ただし、中学生や高校生にいきなり高度なレベルでの討論を求めるのは無理なので、小学生時代からディベートの練習に励み、論理的に自分の意見を述べたり、他人の意見に耳を傾けたり、自己中心的な判断の限界を経験し、他人と共に喜び合う快感を味わうなどの訓練がまず必要になってくるでしょう。
直接民主制が真価を発揮するためには市民社会の成熟が必要であり、その前提として初等中等教育の段階から実践的な市民教育の実施が重要であると考えています。いかがでしょうか?
期待される論点
・中学校への実践的公民教育(時事的トピックを巡るディスカッション等)導入の是非、その理由、その他の推奨方策等
・小学校段階から民主主義の基盤となるスキル(コミュニケーション、ディベート等)の涵養に資する公民教育導入の是非、その理由、その他の推奨方策等
未来研担当者からの提案
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- 管理人
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- 登録日時: 2016年10月18日(火) 14:34 [phpBB Debug] PHP Warning: in file [ROOT]/vendor/twig/twig/lib/Twig/Extension/Core.php on line 1266: count(): Parameter must be an array or an object that implements Countable
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